落車、気絶、目覚めれば。
2016年の10月27日、定時が5時、自宅まで車で15分。
玄関開けて自転車に乗れば峠へのアクセスに恵まれた環境。
その日はストラバというアプリの区間タイム上位に組み込める気がして、風は強かったが、すぐさま自転車の用意をしていた。
「こんな風の強い日、辞めといた方が…」
同じ自転車乗りの嫁さんが言った。
「大丈夫 、いける。」
そう言って私は自転車で目指す区間へいそいで自転車を走らせた。
何時もはクロモリで走ってるルート、区間タイム上位目指してこの日は愛機のカーボンロードで出かけた。
途中の小さな峠道、いつもの下りのコーナー、手前では60キロぐらい、53キロまで減速し、右コーナーを抜ける。
はずだった…
何故か解らないが、バイクをバンクさせるのを忘れてしまい、53キロオーバーでコンクリで固められた土手の壁面、下には1メートル以上の溝がある、そこへ気がつけば真っ直ぐに。
「ヤバイ!なんで曲げ遅れたんだ!?」
迫る危機、身体は固まる。
「骨折?え、いやどんな事になってしまうんだ、ウソだろ、ヤバイ!」
ふと目が覚める。
真っ暗な夜、目の前には枯れた木、星のない夜空、聞こえるのは虫の声。
「変な夢だな、なんだコレ?早く冷めないかな…」
冷たい空気、顔に当たる愛機のタイヤ、徐々に自分に起きた事態に気づき始める。
「え??なんでこんなとこに?あれ?なんで自転車でこんな所に来たんだ?」
「ヤバイ、とりあえず起きて早く帰らなくちゃ、バイクどうなってるんだろ?嫁さん心配してるな。」
身体を起こそうとするが、動かない。
強い痺れから
「ずっと溝のコンクリで仰向けだったから、痺れてるんだな、とにかく痺れ落ち着いてくれ」
首から上しか動かない。
割れたヘルメットの軋む音が聞こえる。
「動けない…」
夜の峠、しかも寒い日、車も滅多に通らない、ましてや窓を開けて走る事なんてないような季節。
たまに来る車に全力で声を上げる
「おーい!!たすけてくださーい!!」
虚しく通り過ぎる音…。
地面に転がってたのなら、それで気づいてもらえたかもしれない、しかし1メートル以上の溝の中、私も自転車も車道から見えない、そして暗闇。
そう、絶望的。
枯葉を踏む動物の足音に恐怖する、とにかくたまに来る車に叫び続ける。
二台、三台、誰も気づくはずもなく、時が流れる。
「なんて事だ、このままここで死ぬのか、イヤだ!帰るんだ!」
マフラーの音の大きな、スポーツカーらしきクルマが徐行しながら、それも窓を開け、会話しながら近づいてくる。
「おーい!おーい!おーい!たすけてくださーい!!」
車が止まり
「なんか声がしなかったか?」
と降りてくる気配。
「ここです!たすけてくださーい!!」
彼らは私に気づいてくれた。
「大丈夫ですか?いまたすけます!」
安堵した。
今夜はここまで、続きはまた。